はちみつ色

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目線をあげると、はちみつ色の少女がにこやかな表情で接客をしているのが見える。公園の端にある移動式のアイスクリーム屋。その店が、彼女のアルバイト先である。毎週土曜日と日曜日、夏の間だけ営業している小さなお店。白いポロシャツにえんじ色のプリーツスカートという、制服と呼ぶには簡素な装いで、毎週末彼女はアルバイトに勤しんでいる。今日も手馴れた様子でアイスクリームをディッシャーで掬いカップに盛り付けると、弾けるような笑顔で客へと手渡していく。 彼女の名前は栗原ことり、高校二年生である。とろけるようなはちみつ色の髪と、橙色の瞳、影を作るほどの長いまつげと小さく赤い唇。人形のような顔立ちの彼女は、その朗らかな性格も合わさり、この公園のアイドル的存在だ。?を伝う汗を手のひらで拭い、太一はキンキンに冷えたスポーツドリンクを煽った。抱え込んだスケッチブックの中には、やわらかな表情で笑うことりの姿が描かれている。今日も遠目で眺めながら、太一は鉛筆を走らせる。 初めて出会ったのは、もう何年も前のことだ。きらきらと輝くその瞳に目を奪われ、未だに目を離せずにいる。髪色も、まるい瞳も、笑顔も、全てが太陽のようだ。そんなことりを見守る自分は、さながら影だ。ストーカーだと言われればその通りだと思う。声をかけることも出来ぬまま、ひたすらに彼女を遠くから眺め、絵を描き続ける。三冊目になったスケッチブックは、誰にも見られることのないよう押入れの奥底にしまいこんであるが、いつか彼女本人に見てもらいたいと思っていた。     
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