はちみつ色

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いたずらな笑みとともにそう告げる彼女は、いつも遠目で見ていた姿よりもよほど愛らしく、そして生き生きとしていた。それじゃあ!と走り去っていく後ろ姿に、赤いリボンが揺れていた。 彼女が毎日身につけている赤いリボンは、太一がプレゼントしたものだ。数年前の誕生日、ことり宛に送った、最初で最後のプレゼント。当時高校生だった太一は、アルバイトで稼いだ金を握りしめ、彼女に似合いそうなものを探すため、何軒も店を回ったのだ。ようやく出会ったその真っ赤なリボンの髪留めは、はちみつ色によく映える気がして、悩むことなく購入していた。最初に決めていた予算はオーバーしたのだが、初めてことりがそのリボンを付けているのを見たときの感動は今も忘れられない。想像していた通り、華やかな赤はことりによく似合っていた。あれから数年経った今も彼女は大切にそのリボンを身につけてくれている。ことりのそばを通るたびに、派手だなぁ、と太一は苦笑するのだが、アイドルのようでかわいいとも思う。 もらったアイスをスプーンで掬い、一口含む。甘酸っぱいレモンの風味が口いっぱいに広がった。すっきりとした酸味が爽やかで、額に浮かんでいた汗が引いていく気がした。目線をあげると、遠くで彼女が接客を再開しているのが見える。暑さを感じさせない爽やかな笑顔に、また目を奪われてしまった。     
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