クローン

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クローン

 僕はクローン人間らしい。昨日、母から聞いた。昨日は僕の19歳の誕生日でいつもよりも穏やかな風が吹いていた。クローンの技術が確立されてからもう数十年がたつ。気が付けば今人間が飼っているペットのほとんどはインターネットやテレビで話題になった動物のクローンである。  クローンの人間も多くなってきた。僕はそんなに詳しくないのだけれどクローンは倫理的によくないとかクローンの人権がどうとかクローンの動物の肉は発がん性がどうとか騒がれていた時代もあったらしい。今ではそんなことを気にする人はほとんどいない。クローンは会議とか講義とかで配られる大量に印刷された資料と同じことなのだ。  実際、大企業の社長になれば何人もいるらしい。だから、僕が街を歩いていて何度も似ている人とすれ違ったらそれは似ているのではなく同じ人だろう。たぶん遺伝子まで。きっと僕も見たことのない誰かと全く同じ遺伝子なのだろう。そう考えると夕飯はとても不味くなった気がした。そして僕がもっと驚いたことがあった。それは僕が違法クローンであるということだ。クローンであるということを届けないと人間として生活できない。違法なクローンはゴミと一緒らしい、小学校で習ったことだ。猫や犬が殺処分されていた時代があるらしいけど今ではクローン人間も殺処分される。そしたら届け出を出せばいいじゃないか、という人もいるいるだろうけどそれは生後十日までにしなければいけない。届け出と言っても紙に保護者の名前、もしくは本人の名前を書くだけだ。そんな簡単な手続きをさぼるような両親だとは思わない。それについて聞くと父も母も笑ってごまかした。仮にも十九年間一緒に過ごした息子に愛情のようなものはないのか。僕は初めて親に反抗した。財布と貯金箱をつかみ家を出た。特に行く当てもないし頼れる人も思いつかない。僕は孤独を感じた。本当に誰もいないという孤独を。  こういう孤独を本当の人間も感じるのだろうか。こんなことを昨日からずっと考えている。ぐるぐると同じことを考えていると僕は公園に来ていた。公園のベンチに座って朝日を待つ。ベンチの下では猫が丸まっている。その猫は動画サイトで流行った猫だ。もちろん本物ではない。ただ遺伝子は本物だ。僕は猫を撫でた。猫は甘えたような声を上げた。その声は僕の頭の中で本物だよと言っている気がした。その声を聞くと腹が立つ。
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