クローン

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「お前は自分がクローンってことどう思う?」  猫は首を振る。僕の言葉を理解できているはずがないのに首を振る。僕は僕を否定された気がしてどうしてもその場を離れたくなった。この猫を拾ってくれる人が現れることを願って、僕はベンチを蹴った。ベンチはずっと昔からそこにあって動いたことなど一度もないような雰囲気でひっくり返った。ざまあみやがれ。猫は驚いたように、怒ったように声を上げて公園を去っていった。朝はまだ来ないようだ。  公園を出た僕は駅に向かった。駅は始まりのような気がするから好きだ。まだ始発も無いことは分かっていた。それでも僕は駅に向かった。駅の前ではフードを被った女に会った。まだ若い。年齢は多分僕より一つか二つ上だろう。女は僕を見ると声をかけてきた。私を買わないか、金さえ払えば何をしてもいいと。よく見ると女は今流行りの女優と全く同じ顔をしていた。 「これは、この顔は違うの。私はクローンじゃないの。これは、これはね整形なの」  女は必死にそう言った。でもそれは嘘だと思う。その顔はあまりにも似ていたし、画面の中の顔よりももっとずっと本物であったからだ。僕は財布の中から二万円を出した。 「ほら、これ。でも僕は君を抱かない。君は朝まで僕の話し相手になってくれればいい。金さえ払えば何をしてもいい、だろ?」  彼女は頷いた。そしてコンビニの前で話し始めた。 「君は、本当にクローンじゃないの?整形にしてはよく出来すぎている気がする」 「本当の本当はクローン、じゃなくて本人、本物だったら?」   彼女はいたずらっ子のような無邪気な笑顔で僕の顔を覗き込む。その顔はすごく魅力的だ。その顔を見ているとスポーツドリンクのコマーシャルを思い出した。きらきらと日差しが心地いいプールサイドで水着姿の彼女がスポーツドリンクを飲むやつだ。僕はスポーツドリンクが飲みたくなった。彼女はオレンジジュースが飲みたいというのでコンビニで買うことにした。  スポーツドリンクはあと一本しかなかった。僕はその一本を急いで手に取った。店内には僕と店員しかいなかったが。オレンジジュースは安いものから高いものまでさまざまなものが取り揃えられていた。いったい世の中に何種類のオレンジジュースが存在するのか。そのなかで本物のオレンジジュースはどれなのか、考えていたら気分が悪くなったので一番高いものを選び店員に渡した。
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