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「雅?どうしたの?」
くりくりお目めと、顔を見合わせてじっと見つめ合っていると、後ろからシノに声をかけられる。
「かわいいなぁ、と思って」
「アンタそんな趣味あったっけ?」
街のなかにあったテディベア専門店の店頭にならんだクマのぬいぐるみを前にして、失礼なことばを言われる。
「失礼な。私だってぬいぐるみとか嫌いじゃないし。でも、今回は自分のためではないんだけど」
「ん?」
「フライト何時だっけ?」
「夜の21時です」
時計は15時を指している。
あいにく、持って帰るスーツケース類は車だし、それ以外にシノから持って帰れと色々渡された服も含め大きなものはすべてすでに日本へ郵送済みだ。
時間には存分に余裕がある。
「ちょっと寄ってほしいところあるんだけど」
「いいわよ」
「じゃあこのぬいぐるみ買ってくるね」
そういって、ぬいぐるみを抱き上げてレジに行く。
思ったよりもふもふ感があり、想像以上に気持ちがいい。
そしてなによりでかい。
「あんたそんなでかいぬいぐるみ買ってどこにいこうっての?」
「小学校行ってほしいんだよね。ここ住所」
メモを清水さんに渡すと、把握したようで快く了承してくれる。
「小学校?」
「帰る前に会っときたいんだよね。ずっと、そのままだったし。気になってたんだよ」
首をかしげるシノに清水さんがくすりと笑う。
「とりあえず、出発しますよ。乗ってください」
清水さんが後部座席を開けてシノに続いて車に乗り込むと扉が閉まる。
「じゃあ向かいますね」
「お願いします」
そう声をかけると、車が発進する。
「明弘には連絡したの?帰るって」
「うん。迎えにいくってさ」
明弘との電話の内容を伝えると、ふーんとシノは返事する。
「シノはいつ帰るの?ハワイに」
「明日には本邸に戻るわ。雅が帰るなら私がここにいる理由もないし」
「家貸してくれてありがとう」
「あら、別に構わないわ。持ってるのに使わないんなんて、ただの持ち腐れだわ」
シノらしいな。返答が。
「あなたは日本に戻ればまた仕事人間なわけでしょ?また会いに来ないつもりね」
「またいくよ。ハワイ」
「次来るときは将来の伴侶連れてきなさい」
伴侶って……こだわるなぁ。
「いくときにいれば、ね」
「もう」
絶対連れてこない気ね。とシノ。
ばれたか。
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