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かわいらしい声で日本語を話し始める女の子。
君に会いに来た、というと少し黙り、そしてはっとしたように口を開く。
「もしかして、雅おねえちゃん?」
「……あたり」
そういい、テディベアから顔を出す。
「久しぶり、奏ちゃん」
渡瀬奏。
1年半前、風見学園で会った渡瀬彼方の妹。
移植手術で渡米する手助けをした。
その彼女がすっかり元気になってここで留学してると聞き、かけつけてみた。
あの頃は病床で窓を見つめてるだけだったあの子が、ちゃんと自分の足で立って、慣れない異国の地で勉強をしている。
「お姉ちゃん、なんでここに」
「ちょっと用事。私も昨日まで留学して勉強中だったの」
「おにいちゃんが、おねえちゃんがいなくなったって前に言ってたから、もう会えないかと思った」
本当は会う必要なんてなかったんだけど、つい顔をみておきたくなった。
【奏、知り合い?】
教師が近づき、こちらでかがむ。
【お兄ちゃんのお友達。日本で知り合ったの。アメリカで病気をなおす手伝いをしてくれたんだ】
別に私は直接手伝ったわけではないんだけどね。
【へぇ、そうなの。よかったわね】
ニコリと微笑まれ、奏ちゃんも笑う。
「お姉ちゃんは、まだここにいるの?」
「ごめん。私は今日日本に帰るの」
「そうなの、じゃあお兄ちゃんに会うの?」
心苦しくなるが、横に首を振る。
「私は、お兄ちゃんとはもう会えないんだ」
「どうして?」
「ごめん、理由はなんて説明したらいいかわかんないから言えない」
奏ちゃんがずーんとへこむ。
「今日は奏ちゃんにこれを渡しに来ただけ」
テディベアを彼女に差し出す。
「奏ちゃんはいつ帰る?」
「えっと、小学校卒業したら帰る。中学は日本の学校通うの。お兄ちゃんが言ってた風見学園の中等部受ける予定」
「……そっか。じゃあこのクマさん、それまでのお守り。奏ちゃんが、アメリカで頑張れますように」
ちゃんと元気で安心したよ。
「じゃあ私も」
奏ちゃんは机まで走り、何かをとってこちらにやってくる。
「お姉ちゃんが、頑張れるお守り!」
そういって赤いリボンを差し出される。
「前より髪伸びてるから」
そういえば切ってなかったな。
「ありがとう」
「また、会おうね」
「うん。じゃあね」
彼女の頭をなでて教師に挨拶をし教室を出る。
そして学校を出てシノたちのもとへ戻った。
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