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「大丈夫ですよ、お母さん。僕は逃げません。その点もご安心ください」
「ちょっと亜矢、聞いた? 世良さんって、ほんと素敵よね」
はぁ……。どうしてこんなことになったのだろう。なんて考えるまでもなく、隣で優雅に紅茶を飲んでいる世良さんがプロポーズしましたと両親にバラしちゃったからなんだけれど。
でもこれがわたしの望んでいた形なのだろうか。
両親へのあいさつとプロポーズは過去の恋愛では叶えられなかったこと。それは約束よりも重い責任が伴う。あの頃のわたしはたしかにこんな日を夢見ていた。
「本当にこんな娘でいいんですか?」
父がまっすぐに世良さんを見据える。さっきまでのふざけた雰囲気がガラリと変わり、真剣な父の顔に場の空気が張りつめた。
「亜矢さんじゃないとだめなんです。僕にはもったいないくらいの女性だと思っています」
その言葉に父は黙ってうなずいた。
わたしも、その言葉を厳粛に受け止めていた。逃げないで本気で考えないといけない。わたしの世良さんに対する想い。果たしてその想いが結婚に結びつくのか、まだわからないけれど、初めて本気で向き合おうと思ったような気がする。
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