第4章 心配性の王子様

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「世良さん、今日はいろいろとありがとうございました」  アパートへ帰る途中の車のなかでお礼を言うと、世良さんがかすかに笑みを浮かべる。 「東京観光は楽しめた?」 「はい。久しぶりの東京なので、母は年甲斐もなくはしゃいでました」 「亜矢ちゃんに会いたかったんじゃないかな。ずっと会ってなかったんでしょう?」 「ええ、まあ。なんとなく親に合わせる顔がなかったので」  元彼の結婚がショックで会社を辞めてしまい、そのことで両親にうしろめたさを感じていた。それなのに清々しい気持ちで両親と過ごせたのは、きっかけを作ってくれた世良さんのおかげだ。 「世良さん、夕飯は食べました?」 「ううん、実はちょっとだけ仕事をしていたんだ」  それなのに、わたしが帰るタイミングを見計らって迎えにきてくれたんだ。だったら今度はわたしの番。世良さんに少しでも安らいでもらいたい。 「だったら、わたしに作らせてください。なにが食べたいですか?」  食通のイメージがある世良さんの口に合う料理を振る舞うことは至難のわざだが、がんばってチャレンジしたい。
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