第5章 結婚前提同居のはじまり

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 めんつゆを作っているうちに、お蕎麦がゆであがった。氷水で締めて、それぞれのお皿に盛りつける。世良さんの分を大盛りにして薬味のネギとワサビも添えた。 「よし、完成」  と、ひとり言を言ったら、「できたの?」という声が返ってきてびっくり。 「はい。今、お持ちしますね」 「じゃあ、テーブルの上を片づけるよ」  ノートパソコンの電源を落とし、散乱していた資料を集めると、トントンと角をそろえて封筒にしまう。その分厚い封筒と一緒にパソコンをリビングのテーブルに置きにいっている間に、わたしはダイニングテーブにお蕎麦を並べた。 「おいしそうだね」  ダイニングに戻ってきた世良さんは席につくと、「いただきます」と手を合わせた。昨日の夜も思った。「いただきます」「ごちそうさま」という言葉は、なんて素敵な響きなのだろうと。ひとりでは味わえない喜びがわたしの頬をゆるめた。 「どうかした? ニコニコしちゃって」 「人にごはんを作るって楽しいことなんですね」 「相変わらず、かわいいこと言うね」 「そんなことないですよ」  ズルズルッと遠慮なくお蕎麦をすする音がする。おいしそうに食べてくれる姿を見ながら、わたしは実家のことを思い出していた。 「うちの母もそうなのかなって。あんな母ですけど、あれでもかなり家庭的なんですよ」
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