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「なにか飲まれますか?」
「緑茶がいいな。あったかいの」
世良さんはそう言ってキッチンを出ると、ダイニングテーブルの椅子に腰かけた。そこからじっとわたしを見ている。この間の仕返しのつもりだ。わたしがカレーを作っている世良さんをジロジロと見ていたから。
「真似っ子ですね」
「でも、やめないよ」
世良さんがいたずらに目を細める。
わたしがマグカップに緑茶を淹れてテーブルに置くと、世良さんが楽しげに言った。
「こうしていると、やっぱり僕たちって新婚みたいだね。そう思わない?」
椅子に腰かけ、マグカップを見つめながら考えてみるけれど、すっきりと答えが出てこない。不安がないからなのだろうか。逆にこのままでもいいかなと思ってしまう。
けれど、こんな贅沢なことで悩んでいたらバチがあたってしまいそうで怖い。
「あともう一歩かな」
「ごめんなさい」
「本当に悪いと思ってる?」
「……え?」
「もしそう思ってくれているなら、僕の提案を聞き入れてくれないかな?」
突然、世良さんがまじめな顔つきになった。ふんわりとした雰囲気がシャープになって、その変わりようにドギマギとわたしの心臓は落ち着かなくなる。
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