第5章 結婚前提同居のはじまり

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 だけど嫌じゃない。そんなふうに思うわけない。あふれてくる感情が恋や愛なのかはまだわからないけれど、たしかにわたしは自らの意思でここにいる。 「布団はいつ買いにいくんですか?」  きっと、こんな状況を望んでいたのだ。一緒に暮らせば、わたしが知りたいわたしの本音が見えてくるはず。それを確認しないと結婚という領域に踏み込めない。 「さっそく今日にでも行こう」 「わかりました」 「亜矢ちゃんのご両親にも了解をもらわないといけないな」 「電話しておきます」 「僕がしてもいい? でも同居を延長します、なんて言ったら、さすがに怒られるかな?」  ほんわかと気負いなく言う。そんな世良さんがわたしにはとても頼もしく思えた。  実直さのなかにユーモアを織り交ぜてくる、その気遣いがあなたの強さだと知りました。やさしさは強さだということをまざまざと感じ、笑いかけてくれる世良さんを前に、わたしはやっぱり泣きそうです。  こんなふうに愛してくれる人はいなかった。わたしはこの一年、世良さんのなにを見ていたのだろう。どうして気づけなかったのだろう。  いや、もしかすると気づいていたのに、自分でそれを認めたくないと思っていたのかもしれない。  恋をするのが怖かった。だから好意を持ってくれることに気づいてしまったら、わたしはその恋から逃げ出してしまっていたような気がする。そうなりたくなかったから、本能的に認めなかったのだろう。
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