第5章 結婚前提同居のはじまり

11/27
前へ
/273ページ
次へ
「変な気のまわし方しないでくれる? それにわたしはこれから別の用事があるのよ」 「なーんだ、つまんないの」 「つまらなくないでしょう。おかしな子ね」  萌さんがプイッとそっぽを向く。  自分は余計なお世話をするくせに、自分がされると露骨な態度で嫌がるんだから。 「そろそろ行かないと」  萌さんが肩にかけていたクランベリー色のバッグを持ち直した。 「もう行っちゃうの?」  さっき来たばかりなのに。また随分と慌ただしい人だ。 「これでも忙しいのよ」  そう言うと、萌さんは「またね」と手を振り、ヒールを鳴らして事務所を出ていく。  相変わらず、格好いいなあ。  男性と同じ仕事をこなし、おそらく収入もそこらの男性より稼いでいる。ひとりで生きていく力があるのに、女性らしくて色気もあって、四十歳なのに、いまだに見知らぬ若い男性から声をかけられるらしい。  見習わないと。今のわたしは誰かに助けてもらってばかりだ。
/273ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3409人が本棚に入れています
本棚に追加