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「変な気のまわし方しないでくれる? それにわたしはこれから別の用事があるのよ」
「なーんだ、つまんないの」
「つまらなくないでしょう。おかしな子ね」
萌さんがプイッとそっぽを向く。
自分は余計なお世話をするくせに、自分がされると露骨な態度で嫌がるんだから。
「そろそろ行かないと」
萌さんが肩にかけていたクランベリー色のバッグを持ち直した。
「もう行っちゃうの?」
さっき来たばかりなのに。また随分と慌ただしい人だ。
「これでも忙しいのよ」
そう言うと、萌さんは「またね」と手を振り、ヒールを鳴らして事務所を出ていく。
相変わらず、格好いいなあ。
男性と同じ仕事をこなし、おそらく収入もそこらの男性より稼いでいる。ひとりで生きていく力があるのに、女性らしくて色気もあって、四十歳なのに、いまだに見知らぬ若い男性から声をかけられるらしい。
見習わないと。今のわたしは誰かに助けてもらってばかりだ。
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