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冷たい風が吹き抜け、その風の冷たさと不気味に鳴り響く風笛の音にふと目が覚めた。
ゆっくりと瞼を開くと視界にはゴツゴツとした岩肌、入り口の左右に置かれた松明には、緑色の炎がどこからか吹き込んできた風で揺れている。
何もない、剥き出しの岩肌。身を包んでくれる暖かく柔らかな物はここには何一つ存在しない。
睨むようにしながら、その空間を見つめ深いため息を吐く。
いつの間にか眠っていた……。体を石の上に横たえる事も無く、じっとその石に座ったままで。
「……不愉快だ」
目覚めた男は、どこか釈然としない表情を露にその場にゆっくりと立ち上がる。緑色の松明の元に、血を塗り込めたかのように紅く鋭い眼光が揺れた。
人のそれとは相違する彼の姿が、緑の松明に不気味に浮きあがる。
この世界では赤と細長い耳は魔を象徴する色であり形である。
もう何千年も遠く昔の人間が今でこそほとんど見なくなった魔物の姿を見、その姿が驚くほどに赤かった事から魔を象徴するものと伝えられ、今に至る。だからこそ人々はよほどの事が無い限り、赤を使用する事が無い。
不幸にも、それら全てを兼ね備えたこの男の名はリガルナと言う。
リガルナは忌まわしい過去の夢をこのところ良く見ていた。
忘れたくても、忘れられない。自分の中にある何かがそれをさせてはくれなかった。少年時代に負った、体に残った数々の傷が消えないのと同様に……。
その腹いせに、つい先日港町を一つ消してきたばかりだ。
またこんな夢を見ては不愉快以外の何ものでもない。このままではゆっくり休む事も出来ず、リガルナはジャリッと地面を踏み鳴らし、洞窟の出口を目指して歩き出した。
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