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べリアルの悪事を止めて国を救う、イーリスは決意を新たに、錆び付いた扉の前に立った。
東西の塔とは異なり、華美な装飾の一切ない実に簡素な扉は、その3分の1ほどが蔦で覆われている。半ば朽ちた閂を怖々はずすと、扉をゆっくり手前に引いた。まるで死者の悲鳴のように、不気味に軋んだ。
そっと中を窺う。が、ところどころにある窓はとても小さく、自分の足さえも闇に溶けている。たとえ馴染み深い場所だったとしても、これではさすがに先へは進めない。
(そういえば)
さっきつまずいたもの、そう、ランタンがある。
振り返ると、ランタンはさっきと同じ場所で、静かに横たわっていた。
(付け木があれば、あのランタンを使えるんだけど、さすがにそこまで都合よく──)
ランタンのまわりを見回していたイーリスの視線がふと止まった。
あった──付け木だ。ランタンから少し離れたところに落ちている。ランタンを落とした人物が、付け木も一緒に落としてしまったのだろうか。
(運がいいわ、あのランタンをお借りしましょう。大神リアーよ、ありがとうございます)
ここまで都合よく物事が運ぶとは、もしかしたら罠ではないか──と訝ることもせず、イーリスはランタンに火を灯すと、ようやく塔の内部に足を踏み入れた。
冷やりとした、古臭いにおいに全身が包まれる。
ランタンを掲げて上部に目を凝らすと、壁に沿って幾つもの部屋が設えてあるのがぼんやりと浮かび上がった。いずれのドアも正方形の小さな小窓があるだけの、ひどく無機質なものである。その部屋の前を、緩やかな傾斜の階段が、螺旋を描きながら立ち昇っていく。
ごくりと唾を呑み込んだ音が、やたらと大きく谺した。
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