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とにかく、この膨大ながらくたの中から、サン・クレールらしき水晶玉のようなものを見つけねばならない。べリアルは今宵12時にここへ来ると言っていた。今の時刻は? 21時の鐘は鳴っただろうか? いずれにせよ、急ぐに越したことはない。
とりあえず、机に近付いてみた。何冊もの書物が積み重ねられ、いくつもの羊皮紙が散乱し、燭台は錆びている。だが、いくら散らかっているとはいえ、あまり物を動かしてはならない。どのくらいの頻度かは判らないが、確実にべリアルはこの部屋を訪れているのだ。
机の中央に無造作に置かれた羊皮紙を、そっと除けてみた。
(え……?)
羊皮紙の下に、直径5㎝ほどの、水晶玉"のようなもの"があった。
(え……? え……?)
もっともそれは、水晶のように透明ではなく、薄桃色や薄紫色、水色や薄黄色といった、淡い色のついた靄のようなものが、中でゆっくりと蠢いている。
(水晶玉の、ようなもの……)
よく見ようとランタンを翳すと、影が動き、水晶玉のようなものの脇に置かれていた小さな羊皮紙が照らし出された。そこに書かれていた文字を見て、イーリスは思わず声をあげそうになった。
そこには紛れもなく「サン・クレール」と記されていた。水晶玉のようなものに向けて、丁寧に矢印まで書いてある。
(これが、サン・クレール……!)
まさかこんなにあっさり見つかるとは。いや、そんなことはどうだっていい。
サン・クレール、大いなる魔力を秘めたもの──それがこんなに雑に置かれているとは。いやそれもどうだっていい。
(と……とにかくこれをどうにかしなくては)
躊躇いながら震える手をサン・クレールに伸ばす。触れても大丈夫なのだろうか。火傷するほど熱かったり、冷たかったりしないだろうか。爆発しないだろうか。
ええい!と勇気を振り絞り、イーリスはサン・クレールを鷲掴みにした。
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