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「……我々と、サン・クレールの力があれば、世界は我々のものになる。すべてが望むままだ」
世界……?
べリアルは世界征服をたくらんでいるというのか。
「さあルーシェ、決断したまえ。私とともに世界を手に入れるか、それともこのまま一介の魔導師としてつまらぬ人生を──」
「世界とか別にどうでもいい。あんたと一緒にっていうのも気に入らない」
(ああっ、そんな事おっしゃっては……)
「……五万イェム出そう。特別手当てだ」
「わかった、協力しよう」
(お………お金!? 結局はお金なの!? しかも即決!?)
べリアルはプルミエ・マージだ、プルミエ・マージであるからには、給金もたんまりもらっているに違いない。
べリアルのことを「渋くて素敵」などという、ものすごく変わった女官たちがいるが、その「渋くて素敵」なべリアルが金も持っているとなると、5割増しくらいでいい男に見えてしまうものなのだろうか。
「ところで、さっきから言ってる"サン・クレール"っていうのは何なんだ?」
そう、それだ、サン・クレール。べリアルの貯金額などどうだっていい。
「ふふ。少しは興味が湧いたかな」
「そのサン・クレールってやつの内容次第だな」
「よかろう、我が協力者であるおまえにだけ教えてやろう」
(あっ………)
イーリスはふと我に返った。
これからべリアルが明かそうとしているサン・クレールの秘密、それを部外者である自分も知ってしまうことになる。そもそも盗み聞きするつもりではなかった。足音が近付いてきた時点でさっさと退散すればよかったのだ。
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