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だが、時すでに遅し──
べリアルが世界を手に入れようとたくらんでいることを聞いてしまった。自分も共謀者なのだ。それに今、ここから気付かれずに去ることなど不可能。体を起こした途端に「誰だ!」ということになり、「我々の話を聞いていたな。王女といえど、生かしておくわけにはいかぬ」という展開は避けられないだろう。
「サン・クレールは、一見ただの小さな水晶玉なのだが、そこには大いなる魔力が秘められている」
「へえ」
「我々は魔導師と言われているが、実際には大神リアーへの祈りの言葉を唱えるくらいが関の山だ。普通の人間より僅かに勘がいいというだけのこと。だが、サン・クレールの力を借りれば、我々は本物の魔力を授かることになる」
「その話が本当だったらすごいんだろうな」
「私は今、偽りなど話しておらぬ」
(本物の魔力を授かる……この国に、本物の魔法使いが誕生するということ………?)
もしそうなったら、世界はどうなってしまうのだろう。
何でも意のままに操れる魔法使いが現れたら。
魔法の「ま」の字も知らない王家など、真っ先に追放されるのではないか? 本物の魔力を持つ本物の魔法使いがこの国に君臨することなど、想像に難くない。しかもその"本物の魔法使い"になるのは、どうしても好感を持つことができないあのべリアル。
「百歩譲って、あんたの言ってることが本当のことだとしよう」
ややあって、ルーシェと呼ばれた青年の、ひどく冷静な声がイーリスの耳に届いた。
「あんたは誰からそれを聞いて、信じたんだ? ただの作り話だと思わなかったのか?」
この青年、随分と疑り深い。
「聞いたのではない──これを読んでみなさい」
「……古い本だな。カビ臭い」
(本………?)
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