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「この本はどこで手に入れた?」
「先代のプルミエ・マージが持っていた。彼が亡くなる時、絶対に他言無用との条件で譲り受けた。歴代のプルミエ・マージに内密に受け継がれてきたのだそうだ」
「俺にしゃべった時点で内密ではなくなったな」
「おまえは協力者だからな。それに次期プルミエ・マージにと考えている」
「そうですか」
しばし沈黙が続いた。ルーシェが本を読み進めているのかもしれない。
だがそんなことより、イーリスの心臓は破裂寸前だった。
「内密」「他言無用」「次期プルミエ・マージに」、そんな秘密だらけの情報を、しかとこの耳で聞いてしまった。こんなことになるなら、二人の話し声が聞こえてきた時点で、見つかる事を覚悟に退散すればよかった。やはり盗み聞きはいけないのだ。たとえどれだけ気になっても、他人の内緒話にいいことなどないのだ。お父様お母様ごめんなさい。
「……歴代のプルミエ・マージは、サン・クレールってやつとこの本を、守ってきたんだな」
「その通りだ」
「あんたはそれをぶち壊すのか」
「強大な力がすぐ近くにあるというのに、それをただ眠らせておくのは大いに無駄だろう」
「すぐ近く?」
「北の塔の最上階──行ったことはあるか?」
「いや」
「プルミエ・マージだけが入ることを許されている小部屋がある。サン・クレールはそこに保管されているのだよ、モグイとともにな」
「モグイ?」
その時、夕闇の到来を告げる神殿の鐘が厳かに鳴り渡った。気付けば空は、力強い青から清楚な水色へと変化していた。
「続きはまた──今宵12時の鐘が鳴る頃に、北の塔で」
「わかった」
「喜ぶがよい。もうすぐ、この世のすべてが我々のものとなる」
再び下草を踏みしめる足音が、ゆっくりとイーリスから遠ざかっていった。
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