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幸福草をめぐる争いの歴史は1,000年以上にもなる。 幸福草はある日突然この世に姿を現した。 今は無きエスタ国のいわゆるスラム街に住んでいた一人の貧しい少年サジンはある日不思議な夢を見た。 鬱蒼と植物が生い茂る恐ろしく暗い森を必死で歩くサジン。行き先は彼にもわからない。ただひたすらに歩く歩く歩く…。 何時間歩いただろう、疲れ果てて座り込んだ彼の目にあるものが飛び込んできた。目が覚めるほど鮮やかな赤色の花が一輪と丸い実が一つ実っている植物。ほのかに甘い香がする。茎は細く頼りないのに真っすぐ延び20センチ程もあり、葉は三つ葉のクローバーに似た形だが、これは五つ葉だ。茎や葉は、深い緑色をしていた。 見たこともないその花は何故か魅了する。思わず見とれていると、視界に割って入る白い布が見えた。ふと目を上げると布を巻き付けたような服を着た、漆黒の長い髪の女が、微笑みながらその実を一つ採り彼に手渡した。 『この種を大事に育てなさい、咲いた花の数だけ願いを叶えましょう』 そう言った声は透き通っていてとても美しかった。 彼が礼を言いお辞儀をし、頭を上げるとその女は消えていた。 ここで彼は目が覚めた。寝ていたはずなのにひどく疲れていた。握られた左手の中に違和感を覚えた。手を開くと夢で見た花の実が一つ、しっかりと握られていた。 植物など育てたことのないサジンは近所に住む物知りな爺さんに育て方を聞き、彼なりに一生懸命育てた。 3ヵ月ほど過ぎたある日、草は3つの小さな蕾を付けた。サジンはますます大切に育てた。がしかし、3つの蕾のうち一つは咲かずに枯れてしまった。残りの2つは順調に育ち、あの夢で見たのと同じく見事なまでに真っ赤な花を咲かせた。
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