記憶は記録じゃない

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 ひかるちゃん、いや小森(こもり)(ひかる)は我が高校の制服であるブレザー、そしてスカートを着こなしていた。  スポーティなショートヘアー、切れ長な目、潤いを感じさせる唇、学校指定のブレザー、リボン。鞄の持ち手を肩にかけ脇で挟んで支えている。そして学校指定のチェック柄のプリーツスカート。  こうしてみると記憶の中の光が鮮明に色を帯びてくる。  彼女は確かに女の子であった。が、クラスの女子と話をしているよりは外に出て遊ぶタイプであった。そのためクラス中の男子からの人気を独り占めしていたのだ。  外で駆け回れるようにと彼女の服装はいつも動きやすいものであった。スカートをはいているところなど記憶にない。  ランドセルもお兄さんからのおさがりとかで真っ黒いものを使っていた。  いつからか、俺の記憶の中の光は男の子に変換されていたようだ。 「こうして二人で歩くのも久しぶりね」  あ、ああと生返事を返す。  声を聴くと幼いころよりも少し落ち着いた声色な気がする。 「いっちゃんは最後のお別れのときを覚えているかな」  忘れられるものか。当時の俺の一世一代の告白はお前のおふざけによって粉砕されそれは今やトラウマに近い。 「あ、あの時はふざけちゃったけど…。私、あのとき、ほんとは嬉しくて…」 「…駅、ついたぞ」  うつむく彼女は気づいていなかった。  駅はすでにすぐそこ、俺は彼女が何を言いたいのか分からないふりだ。  これ以上トラウマをほじくり返されてたまるか。 「俺は定期を持っているけど、ひかるはまだだろ。ここで待ってるから切符買って来い」  ひかるは少し俺をにらみつけてから自動券売機へと走っていく。  俺は上気しつつある頬をなだめてひかるの帰りを待つ。  ほどなくしてやってきたひかると一緒に構内に入り、電車に乗って高校へと向かった。  以降、俺がひかるの口が開くのを見るのは始業式後の転入生紹介のときだ。  自己紹介早々あいつは 「むかし徳町(とくまち)一誠(いっせい)くんに結婚を申し込まれたこともあります。よろしくお願いします」  俺の花のない華々しい高校生活が終わった瞬間だった。
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