記憶は記録じゃない

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 小学校三年生のときだ。  帰り道にあいつが唐突に言ったんだ。 「僕、こんど引っ越すんだって。転校するんだって」  よくは分からないが、当時の俺はとても焦った。  遊び相手が減るからなのか、一人で帰ることになるからなのか、それとも別の理由か。  俺はひどく慌てたのだ。  いつ引っ越すのか、いつ学校からいなくなるのかいつまで一緒に遊べるのか。  俺は一つ一つ確実に覚えるようにして質問していった。  あいつは不思議そうにしながらよどみなく答えていった。  いや、もしかしたら分からなくて別の日に答えを聞いたかもしれない。  そんなことはどうでもいいのだ。  俺はどうしたらあいつとずっと遊べるかを考えていたのかもしれない。  そうして俺はあの日を迎えるのだ。
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