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記憶は記録とは違う。
映像はセピア色どころかモノクロ、いやどんな風景だったかも分からなくなる。
どこで誰と、は覚えていてもその時の様子、表情、しぐさ、それらの映像は頭の中にはっきり残らない。一瞬一瞬過ぎては消えていく。
感触は戻らない。
何を触っても、あの時のような肌触り、柔らかさにはならない。そもそも、触っていたのかさえ怪しい。
音は過ぎ去ったら戻らない。
確かにこんな音だったと、模倣することもままならず、ただただ、言葉のみが思い出される。
そう、何をしたかと言葉ばかりが記憶に残る。
当時の俺はどうしてもあいつに残ってほしかったんだとおもう。
だから俺はあいつに言ったんだ。
今も忘れることはない。
「俺とお前が結婚すれば、きっと転校なんてしなくてよくなるよ。俺と結婚しようぜ」
そしてあいつは非常に冷静だった。
いや、それまで楽しそうに話していたのが嘘みたいに静かになった。
「でも僕、男の子だよ」
あいつとの記憶はここで途切れている。
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