心に触れて

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 毎週抱かれるたびに渡される、封筒に入ったお金は手を付けずに大事に取ってある。いつかこの関係を断ち切って、その時に返そうと思っているのだけど……そのチャンスは中々めぐってこない。私はもう一度、深く深くため息をついた。  周りの人たちが、ガタガタと音を立てて席を立ち始める。 見上げると、時計の針がぴったり12時を指していた。私を含め、他の事務員たちも背伸びをする。待ちに待ったお昼休みだ。 今日は金曜日。金曜日のお昼は、どこかみんなご機嫌だ。 「はるちゃん、社食行こー」 「は、はい!」  私よりも先に勢いよく立ち上がっていた早田先輩が、私に声をかけた。私も機嫌よく返事をする。そう、いつものコンビニおにぎり生活を終えて社員食堂に行けるくらい生活が余裕になってきたのだ。  机の一番下に入れたカバンを取り出して、勢いよく席を立った。その瞬間、ふらっと目の前が少し暗くなる。 「あ……」 「どうしたの?はるちゃん」 「え……あ、あの、おトイレ行きたいので、先に行っててもらってもいいですか?」 「わかった。席取っとくね」 「ありがとうございます」  早田先輩が向かう社食の反対側にあるトイレに向かう、昼休みが始まったばかりなのに誰もいないトイレで、私は鏡と向かい合った。貧血から来るめまいかと思ったけれど、そんな様子はない。ただ少しだけ血色がいいというか、頬が赤くなっている気がした。     
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