或る猫の噺 壱

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つい先日のことさ。 猫、っつうのはまあお兄さんみたいな人間から見りゃあのーんびり苦労知らずで暮らしているように見えるだろうがね、実際はそうでもないんだこれが。 餌をくれる人間もまァいるにゃあいるんだが、毎日ありつけるわけじゃあない。しかもそういうとこは力の強い奴が幅を利かしとる。つーことでその辺の鼠やらを狩ろうにも、人間は見つけ次第処分しちまうだろ?あっしみたいなのは食うや食わず、なんてご大層なもんじゃないがそれなりに苦労しとるんだ。 ところで、最近ここで一匹の雌猫とな、ちっさいちっさい子猫が殺されてたんだ。ありゃあ間違いなく人間にやられていたね。猫やら犬やらじゃああはならん。 あっしの、大事な大事な家族だったんだ。狩りから帰ったら、もう冷たくなっとった。 許せんかったね。なんとしてでも、やった奴を見つけてやろうと思った。したらな、同情してくれた仲間が教えてくれた。聞いとったんだ。助けられんですまんかったと何度も謝ってきた。別にそいつのせいでは、ないのにねぇ。 そいつが言うにはね、その人間はこう言いながらあっしの嫁と子供を嬲ったそうだ。「てめぇらは楽でいいよなあ!人間はこんなに苦労してんのによ。糞、糞。死んじまえ」ってな。 ……おや、お兄さんや。随分と顔色が悪いな。なにか、思い当たることでもあったのかい? こらこら、もう少しで終わるんだ。もう少し付き合っとくれ。話を聞いてからでも遅くはないはずだ。あっしは猫で、お兄さんは人間なんだからね。
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