日常

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サラが本当に申し訳無さそうな顔でレイナ先生に向かってあやまると、レイナ先生は何も無かったかのような顔でサラに近づき、そして素晴らしい笑みを浮かべてこう言った。 「お母さんが心配してるから直ぐ行こっか!」 叱られると思っていたのだろうか。サラの目は驚きと困惑の感情が混ざっている様子だ。 その目のままでサラはレイナ先生を見つめるが彼女はサラに何も言おうともせず、手を差し出した。 サラがその手を取ると、彼女らは街の方へ歩き出した。 「あ、俺が送るよ。」 ガイが2人に向かってそう言うと、レイナ先生は黄金色の長髪から汗を滴らせながらこちらに振り向いた。 疲れを出来る限り感じさせぬように気丈に頑張っているつもりだろうが、傍から見れば初級魔術しか使えないくらい体力を使ったことがよく分かるほど汗で白衣が湿って透けている。 ガイは彼女にこれ以上無駄な体力を浪費させないために歩み寄り、感情を高ぶらせて先ほどのエアナイフの威力を高めながら自分をしっかり掴んでいるようにと頼む。 2人がガイの体に抱きついて離れないようにするとそれに呼応してナイフの威力も大きく上がっていく。 ナイフの威力が最高値になった事の合図のように、3人の周りに僅かに土煙が立ちこめる。 ガイはそれを見て今まで溜めていた力を一気に解放して風を自分の思うが侭に操り、空に飛び出した。 工場が無いこの街の空気は何処に見せても誇れるほど澄んでいて、勢いの強い風を受けていても不快な臭いがまったくと言っていいほど無くて心地よい。 ガイはスピードを更に上げてレイナ先生の勤めている診療所まで向かった。 「....着いたぞ、2人とも大丈夫か?」 「うん大丈夫。」 「私も。」 2人はガイの体に絡み付けていた腕をほどき診療所の扉の前に向かった。 サラはもう完全に落ち着いた様子で、ガイもほっと一息つくが、サラに渡し忘れている物を思い出しすぐさま呼び止めた。 「サラちゃん、忘れ物。」
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