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久し振りのせいか学生時代の頃の印象とは掛け離れて思える、そう言いたいのだろう。だがしかし、それも当然といえばそうか。あれからもう十年も経っているのだから変わりもするだろうが、こんなふうに無防備にソファに転がり、安心しきったように腹を見せているだなんて、やはりあの頃では考えられなかったことだ――と、おおよそ、そんなふうにでも思っているのだろうことは、氷川の顔を見れば一目瞭然だった。
「は、てめえはいいよな。暢気で気楽で」
氷川の兄たちの幸せそうな話を聞いたせいでか、一気に気持ちが萎むようで、突如孤独感が襲い来る。あれだけ酷い言葉で別れを告げられたからには、もう撚りを戻すことなど不可能なのだろうが、仲良くやっていた頃のことを思えば何だか急激に寂しさが募るようで、堪らない気分にさせられた。
ふと、頭上から顔を覗き込まれるような感覚に、冰はおぼろげに氷川を見やった。
「何……?」
「いや別に……。もしかしてお前、泣いてんのかと思ってよ」
「は……まさかだろ? 何で俺が泣かなきゃなんねーのー? 眩しいだけよ、そこのライトがさー」
相変わらずに呂律の回らないような口ぶりでそんなことを言いながら、眩しそうに瞳を細める。
「ライトだ?」
「なあ、おい氷川。使っちまって悪りィけどそこのライト消してくんねえ? マジ眩しい……」
気だるそうに額に腕をかざしながら、冰はそう言った。
カチッ――と頭上でスイッチを摘まむ音がする。言われた通りに氷川がメインライトを消したのだろう、強烈だった眩しさが和らいだと同時に、薄暗がりが瞳を癒やすようだった。
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