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全面的に安心しきった調子でそんなことを口走ってしまい、――が、それを氷川がどう受け取るかなど、冰にはまるで想像外だった。彼の口から飛び出した意外な台詞、
「そりゃどうかな? そんな隙だらけのてめえ見てっと――」
「久し振りに血が騒ぐってか?」
あっけらかんと暢気な返事をしてしまったことを後悔すべきか――
「別の意味でならな……」
スッと伸ばされた形のいい指先に、クイと顎先を摘ままれて、冰はキョトンとしたように目の前の男を凝視した。
◇ ◇ ◇
――そんなことをするつもりでも、言うつもりでもなかったかも知れない。
こんなことをされるワケも、求められるワケも想像すらしていなかった――。
「なあ、知ってっか? 失恋に効く一番の方法ってよ――」
「あ……?」
「昔からよく言うじゃねえ? 失恋にゃ新しい恋とか何とか……」
頬に添えられた大きな掌、
じっと見つめてくる彫りの深い大きな瞳、
鼻梁の高い鼻筋に掛かる濡羽色のストレートの髪、
自分と氷川との間に急に立ち込めた妖しげな雰囲気に、冰はしばし唖然とさせられてしまった。
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