173人が本棚に入れています
本棚に追加
自分はこんなにも余裕がない男だっただろうか。今まで付き合ってきた恋人に対しても、はたまた一夜限りの火遊びの相手にも、こんな気持ちにさせられた覚えがない。
そう、いつも余裕綽々で、組み敷く相手が恥じらい戸惑う様を眺めては、気障な台詞の一つや二つ――まるでゲームの勝者のように常に上位に立つのが当たり前だったはずなのだ。それなのに、今はまるで逆だ。アタフタと頬を染めて焦らされているのが自分の方だなんて――複雑な思いに冰はますます挙動不審に陥ってしまいそうになった。
それとは逆に、氷川の方は酷く冷静にこちらを見下ろしてくる。
「なら、挿れなきゃいいんだろ?」
「……って、おい……! 氷川、てめ……ヒトの話聞いてんのかって……っ!」
ソファの上に押し倒されて、今度は有無を言わさずといった調子で唇を奪い取られて、ゾワゾワとした独特の感覚に身震いまでもが湧き起こる。
「ちょ……ッ、よせ氷川ッ……!」
身を捩り、顔を背けてキスから逃れようにもしっかりと両の掌で頬を包み込まれて、その腕の中へと捉えられてしまう。しっとりとした厚みのある唇で押し包まれるようなキスに掴まって、身動きさえままならない。
「……よせって……言……ってん……んっ」
「顔を真っ赤にして言われてもな」
信憑性がないとばかりに、より一層真顔で迫ってくる。
最初のコメントを投稿しよう!