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それから儀式は、行われなくなりました。猫を喰らった少女を悼もうと、母と村長が声を上げたのです。それから何百年も経ち、村もなくなりましたが、今でもその村があった辺りには災いは起こっていないそうです――。
*****
「でもさあ、それってお伽噺だろ?」
翔太は馬鹿にしたように笑った。私は急に顔が熱くなる。
「でも、ばあやが言ってたもん!」
「あはは、純粋だな! お前本当に十歳かよ……うわっ」
突然目の前を横切った黒い影に、二人して立ち止まった。心臓がバクバクしている。顔を右に向けると、金色の目をした黒猫が涼しい顔で振り返っていた。
「ああ!? なんだあの猫! 危ないだ……」
その時、ブオンと鼓膜を破らんばかりの騒音が耳を掠めた。改めて進行方向を見てみる。目の前は横断歩道で、信号は赤だった。
「……全然気づかなかったね…………」
「あ、ああ…………」
そういえばあの猫、今、どこから来たんだろう? 近くには飛び降りられるような塀も何もないのに。もう一度右側を見てみる。しかし、もう、そこに黒猫の姿はなかった。
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