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由美ちゃんは、見てるだけ
身長高いなぁ、スタイルいいなぁ。
わたしの目の前を先輩が通り過ぎる。少し目にかかるふわふわの栗毛から覗く瞳は、とても涼しげだった。
かっこいいなぁ、クールだなぁ。
「どしたの、ボーッとしちゃって」
隣にいた友達が、わたしの視線を辿る。
「あー、かっこいいよね、先輩」
「うん。ちょーかっこいい」
わたしの憧れの先輩。ううん、わたしだけじゃない。いつでも先輩の側には誰かがいる。取り巻きがいる。
みんなの憧れの先輩。先輩の威光は周囲を誘引する。
「あたしたちとは住む世界が違うよねぇ。なんかキラキラしてるもん」
「うん。ちょーキラキラしてる」
横切った時の先輩の甘い残り香。くんくんと駄犬のようにそれを肺の中に集める。あはぁ。
「え?」
うっとりとしていたわたしの隣から頓狂な声が聞こえた。
今度はわたしが友達の視線を辿ると、
「え?」
わたしも同じ様な声を出してしまった。先輩が足を止めていた。足を止めて、わたしたちに振り返っていた。
「由美ちゃん」
びくんっ。わたしの背筋がバネのように跳ね上がる。先輩の口からわたしの名前が発せられた、その事実に体が硬直する。
「由美ちゃん、だよな」
「は、はひっ」
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