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1. 三浦香苗
ついに受験生となった、まだ桜の名残る四月の中頃。
学食の真ん中に一人、ぽつんと三浦香苗が座っていた。
周りの喧騒の中、一人だけ静かに、俯いたまま、かけうどんを食べていた。
中学2年の時、三浦香苗とは同じクラスで、三浦はいつも笑っていた。絶えず騒がしいクラスメイトだった。
黒板消しを教室内ではたいてはクラス中を悲鳴に包み、クラスの女子で授業中に回る小さな手紙はいつも三浦から発信されていた。
「中道ぃ、いっつも漫画ばっか描きようね。面白いと?」
一度、三浦にこそこそ描いていた漫画をそう言って取り上げられたことがある。
「あ、ちょ。やめろっちゃ」
その頃まだ小さかった僕は、背の高い三浦が伸ばした手に届かなくって、結局三浦に読まれてしまった。
三浦がいる場所には必ず人が集まっていた。やがていつものように三浦のまわりに女子たちが集まってきて、やんややんやと僕の漫画を読んでいった。
「中道って、ばり絵うまいっちゃない?」
三浦がそう言って、周りの女子たちもうんうんと頷いた。
三浦は何でもかんでも突っ走る性格だった。すぐに担任に話をして、クラス通信に僕の漫画を載せると勝手に決めてきた。
僕は断ったが、三浦は意にも介さず、四コマ漫画の締切を伝えて、またどこかへ遊びに出ていってしまった。
あのとき、僕は迷惑そうなふりをして、心の中では嬉しい気持ちでいっぱいだったのを覚えている。
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