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「中道っちゃん、なに突っ立っとうと? 食券買った?」
ふと、背中から声を掛けられ、驚いて少し飛んでしまった。
「びっくりしたやん、急に」
「びっくりしたんはこっちばい。飛び上がらんでも良かろうもん」
3年で同じクラスになった水球部の渕上が後ろでけたけたと笑っている。
「中道、ぼーっと誰見とったとや?」
渕上がさっきまで僕が見ていた視線を辿る。学食の真ん中辺りへ渕上が舐めるように視線を這わす。
「もしかして、あれ? 三浦?」
渕上は水球でも空いたスペースを見つけるのがうまい。こんなところでも、いかんなくその能力を発揮してくる。
僕は変に否定する方が後々ややこしいなと思い、頷いた。
「中学ん時、一緒やったっちゃけど……。何か中学んときと印象ちゃうけんが」
「え? 好きとね?」
渕上は吹き出しそうになるのを堪えている。いたずら気満々の表情でそう訊ねた。
「そげなん、ない。久しぶりに見ただけたい」
そう言っても渕上はおどけながら、肘で突っついてきた。だが、渕上は少し表情を変えて「ありゃ、やめとき」と呟いた。
「違うって言うとろうが」
僕はそう返して渕上の頭を小突きながら、最後に俯いて丼に向かう三浦を横目で、少しだけ見つめた。
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