ウバタマ様

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ウバタマ様

 まぁ,お前らも知っているだろうけど,俺らがガキの頃から散々聞かされてるあの話だ。  実際にあれを経験してるのは,九十過ぎの年寄りくらいだろうけど。そんな年寄り,もう村にはいないけどな……。  もともと,この土地の……どこかは知らないけど,どこかに自生してた植物だってのは,お前らも聞いて知ってるよな。二百年か三百年くらい前なのかな……。当時は,その植物を乾燥させ,男たちはそれを口に含み何時間もかけてふやかし,女たちは煎じてお茶として飲むのが一般的だったって話だ。  ただ……慣れないやつがその植物を口にすると,激しい嘔吐と眩暈で何時間も具合が悪くなるらしい。  不思議なもんで,この話……。その植物についてはこの土地以外ではまったく聞かないし,そんな植物が存在したことさえ,どこの記録にも残っていないそうだ。  いつ頃からか,この村からもその習慣がなくなって,その植物自体を見ることがなくなったそうだが,俺らが知ってる人で唯一それを実際に見たこともあって,しかも経験したことがあるのが伊藤の爺さまだ。  俺もこの話を直接爺さまから聞いたんだけど,まだ爺さまが元気で村役場の仕事をしていたときだ。話を聞いたのは,もう十五年くらい前の夏の村祭りの打ち上げのときだ。たしか……俺らの中学の卒業式があった年だ。  爺さまが言うには,この土地に古くから伝わるウバタマ様……漢字で書くと鴉の羽に珠って言ってたな……。鴉に羽に珠でどうやってウバタマって読むのか知らねえけど,まぁ,そのウバタマ様ってのがいて,神様みたいなもんなのか知らねえけど,爺さまいわく村の古い儀式らしいんだけど,その儀式に参加した者は全員ウバタマ様に不思議な世界に連れて行ってもらえるそうだ。  その時は爺さまもかなり酔っ払ってたから,なに言ってるか全部わかった訳じゃねぇけど,爺さまの話だとウバタマ様ってのが,その乾燥した植物だってことだ。  で,そのウバタマ様を口にすると,必ずと言っていいほどゲロする。何度も何度もゲロをしていくうちに記憶がなくなるっちゅうか,頭が爆発するみたいになるそうだ。  まあ,想像しただけでも身体に悪そうな感じなんだけど,かつてほとんどの村人がウバタマ様っちゅうのに憑りつかれてたって話だ。
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