ウバタマ様

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 繁の家は古い大きな平屋だったが,几帳面な性格で隅々まで綺麗に掃除が行き届いていた。ただ食事に関しては無頓着で,冷蔵庫の中はビールしか入っておらず,冷凍庫の中は酒を呑むための氷でいっぱいだった。  かつて両親が健在だった頃は,毎朝必ず三人で朝食を取り,それから各々が仕事や学校に行く,そんなどこにでもいる仲のよい家族だった。  それがある日,繁の父親が運転する軽トラックが川沿いの山道で土砂崩れに巻き込まれた。そのとき同乗していた母親とともに4km下流まで流され,発見されたときは軽トラックがわずか数十センチの厚さしかない状態だった。  国道での事故だったこともあり,繁はかなりの補償金を得たが,それ以来,村役場の仕事も辞めて家に引き籠るようになった。  もともと物欲のない性格もあって,繁は補償金に手を付けることなく質素な生活をしていた。隆司も勝も繁の金をあてにすることなく,それぞれ仕事をしていたが仕事が終わると繁の家に集まるのが習慣になっていた。 「おい……隆司,起きろよ。朝だぞ。仕事だろ」  勝が酒臭い息を吐きながら,隆司を起こしフラフラと洗面台へと連れて行った。 「繁……シャワー借りるぞ」  二人は順番にシャワーを浴びると,インスタントコーヒーを飲みながらテレビのニュースを眺めていた。 「あ……もしもし。俺,そう。いま繁んちにいるんで迎えに来て。おう,勝も一緒。そう,仕事。はい,頼んます」  隆司は後輩の純一に電話をすると,テレビのチャンネルをガチャガチャと回し,天気予報がやっていないか探した。
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