317人が本棚に入れています
本棚に追加
すっと、横に影が並び立った。
「りっくん」
「なんだか分かんねぇけど。分かんねぇから、俺も一緒に行く」
眉間にシワを寄せ、頭を掻きながら、理玖は美邑の隣を歩いていた。
「そんな。大丈夫だから」
「おまえの大丈夫なんて、信じられるかよ」
鼻で笑うようなその言葉に、美邑はムッとしたが、理玖は早口で続けた。
「だいたい、おまえはいっつもなんだか危なっかしいんだから。ずっと一緒にいんなら、俺が見張ってやんなきゃダメだろ」
「――」
はっとして、美邑は理玖の顔を見上げた。あくまで不貞腐れた表情の理玖に、「ほんとに?」と震える声をかける。
「あの日の約束……覚えてたの?」
「……どの日のことだか」
「はっ」と笑いつつも、否定はしないその右手を、美邑はぎゅっと握った。記憶の中にあるよりも、ずっと大きな手のひらは、とても温かい。
(あたしは、独りなんかじゃなかったんだ)
大好きな、大切なモモ。今こうして、胸の奥で彼女が見守ってくれているからこそ、勇気を絞り出すことができた。だからこそ、この手の温もりに気がつくことができた。
握った右手は、一瞬固まったものの、ゆっくりと力を込め返してくる。そのぎこちない優しさに微笑み、美邑はまた顔を正面に向けた。
最初のコメントを投稿しよう!