第三話 バケモノ

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※※※ 「もう元気そうだな」  体操着から着替え、ランチバッグを片手に廊下を歩いていると、向かいからビニール袋を持って歩いて来た理玖が、声をかけてきた。一瞬、なんのことか分からず首を傾げると「ボール、めっちゃ弾いてたじゃん」と理玖がにやりとする。 「昨日、具合が悪いって早退してたからさ。逆に今日は、力が有り余ってんじゃねぇの?」 「そう……かな」  ――見られていた。  そのことに、やや速まる心臓を宥めつつ、美邑はへらりと笑い返した。 「それ、お昼ごはん?」  美邑がそっと話題をずらし、理玖の持っているビニール袋を指すと、理玖はあっさり「そう」と頷いた。 「学食で買ったの?」 「それが昨日のことでさぁ、めっちゃ怒られて。今日も弁当抜きにされてさ。マジ怒りすぎだっつーの」  口を尖らせる理玖に、思わず笑顔が素のものに変わる。 「結局、怒られたんだ。昨日の御神鏡のこと」 「そもそも、拝殿でカップ麺を食うとは何事だ、だってさ。それも、十年近く秘されてた大切な御神鏡を汚した上に勝手に開けるとは、けしからん! って」  普段は優しげな神主が大声を出すのを想像し、思わずくすりと音が漏れる。だがそれ以上に、心に引っ掛かった言葉があった。 ――十年。  胸元を空いた手でぎゅっと握る。「川渡?」と首を傾げる理玖に、美邑は「ちょっと、時間良いかな?」と上目遣いに訊ねた。 「訊きたいことがあるんだ。一緒に、お昼食べに行こう」
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