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「結局、君は僕の気持ちなんか考えずに、そうやって自己中心的に生きていくつもりなんだ」
「自己中心なのは、どっちよ。あたし――モモが還ってきて、思い出したんだから。あのとき、あたしに実を食べさせたの、貴方でしょ? あたしを、鬼にするために」
美邑の言葉に、しかし昊千代は表情一つ変えなかった。
「だから?」
そう、問い返してくる声は、ひどく冷たい。
「僕は家族を取り戻したかっただけだ。それの、なにがいけないの?」
淡々とした口調で、昊千代は続ける。
「僕はね、美邑。生まれてすぐに、父様も母様も妹も失って、生まれた世界すら捨てさせられて。周りの鬼たちからは、やれ父様は素晴らしかっただの、母様のせいで全て狂っただの聞かされて、独りぼっちで九百年、生きてきた。君は――君だけが、唯一の希望だったのに。それなのに、そんな冷たいことを言うの? 僕の九百年は、なんだったの?」
「……っ」
トモエとの同調作業で視た、襲撃の日を思い出す。あの、心が痛くなる程の場面を視てしまったからには、「そんなこと言われても困る」だなんて、簡単に切り捨てられない。昊千代も、人間の被害者なのだ。
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