317人が本棚に入れています
本棚に追加
「それともやっぱり、昨日言っていた通り、君の今の家族を僕が奪うしかないのかな」
ぽつりと、何気ない口調で、昊千代が言う。じっと、今度は理玖に紅い瞳を向けて。
「こっちに未練があるから、そんな意地悪を言うんだから。未練を僕が全部、絶ち切ってあげれば良い」
「え? は?」
戸惑った声を上げたのは、理玖だった。状況が分からないなりに、この剣呑な空気は伝わったのだろう。
「止めてっ」
昨日の昊千代の様子を思い出し、ぞっとしながら慌てて大声を出す。
「そんなことされたって、あたしはもう鬼じゃないし。大体、そんなことされたら、貴方を家族だなんて一生認めないんだからっ」
「今の君の気持ちなんて関係ないよ。また鬼に成れば、何百年と時間ができるんだから」
平然と言い放つ昊千代に、美邑がとにかく目の前の理玖を守らねばと、間に立ちはだかろうとしたときだった。ぐいっと腕を引かれ、逆に理玖の後ろに回される。
「おい、あんたなぁ。さっきから聞いてれば」
「り、りっくん?」
呼びかける美邑を無視して、理玖はそのまま刺々しい声で続ける。
「正直、よく分かんねぇけど。最近、こいつが参ってたのは、あんたのせいってことだろ? そんで、またグチグチ言い寄りやがって。何百年だかなんだか知んねぇけど、俺だってこいつのこと、ずっと見てきたし。だからこそ、悪かったと思ってるし――でもそれは、これからだってやり直せると思ってる」
最初のコメントを投稿しよう!