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「母様が……」
ぴくりと、昊千代の肩が跳ねる。
「初代の奥方様が……」
そう呟いた朱金丸は、緩く首を振ると、昊千代に向き直った。
「それでも俺は、俺を家族と思えだなど、言えん」
「……当然だよ。図々しい」
言い捨てる昊千代に、「だが」と朱金丸は続ける。
「家族でなくとも、そばにいることはできる。たまには、支えにだってなってやれる。草っぱごときだがな。それくらいの役には立つ」
そう言いながら、朱金丸はほんの少しだけ、頬を弛めた。
「そうするうちに、家族もどきぐらいにはなれるだろうよ。なにせ、何百年もあるのだからな」
呆気に取られた顔になった昊千代は、しばらく口をパクつかせ。やがて――大きな溜め息をわざとらしくついた。
「……馬鹿じゃないの」
「そうだな。自分で思っていた以上に、俺は馬鹿者のようだ」
真顔に戻り、言葉を返す朱金丸に、昊千代が再び「ほんと、馬鹿」と呟く。その目は、もはや美邑のことなど見ておらず。
美邑と理玖は顔を見合わせ、互いにふと、顔を綻ばせた。夕焼けが、二人の顔を赤く照らした。
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