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髪をばっさりと切ったのは、何年ぶりだろうか。「もったいない」と不満げな理玖に、「りっくんのために切ったんじゃないし」と笑い、美邑は肩にも届かないその毛先をそっとなでた。
あれから二ヶ月が経った。木々の緑色が濃くなり、鏡戸神社の境内では、やたらと蝉が喚き散らしている。
溶けかけた棒アイスを口に含みながら、美邑は拝殿の出入り口に腰かけ、大きく伸びをした。切れた注連縄はとっくに直され、今は堂々とした姿を見せている。相変わらず、他の神社とは巻き方が逆なのか――敢えて確認しておらず、定かではない。
拝殿の内部も変わったところはなく、御神鏡は今も静かに祭られている。
あの日の夕方、朱金丸と昊千代はそろって『裏側』へと帰っていった。おそらく、もう会うことはないし、その方がお互いにとって良いのだろう。
「迎え入れられないこと、実を言えば残念な気持ちが、ないわけでもない」
そう言ってわずかに笑った朱金丸の言葉を、本音ととるべきか冗談ととるべきか、美邑は悩み、結局「ありがとう」とだけ返した。代わりに、「あのさ」と、朱金丸の顔に刻まれた紋様を指した。
「これ。罪の証だとか、そんなことばっかり聞いたけど。……あたし、思うんだけどさ。本当に朱金丸さんのこと、罪だとかなんだとか思ってたら、こんな綺麗な模様にしないよね」
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