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朱金丸は、一瞬だけきょとんとした目で美邑を見ると、「……そうか」とだけ呟いた。やはり無表情ではあったが、身にまとう空気がほんのりと柔らかくなった気がして、美邑はにこりと笑った。
「あと、ありがとう。あたしに……モモをくれて」
それは心からの言葉だった。朱金丸のおかげで、美邑はモモに出会えた。それが、この十年間の救いだった。
朱金丸は少しだけ目を細めると、右手で美邑の頭をくしゃりと撫でた。
「俺は、貴様のゆにこんだからな」
その言葉に、今度は美邑がきょとんとする番で。意味が頭に染み込むと、くしゃりと笑って朱金丸に抱きついた。
「ありがとう、朱金丸さん。迎えに来てくれて。あたしを、本当の独りぼっちにさせないでくれて」
朱金丸はもう一度、美邑の頭を撫でると、少し離れた場所で待っていた昊千代と共に、鏡の中へと消えていった。
撫でられた頭に残った温もりを、自分の手のひらで確かめ。美邑は「さよなら」と呟き、理玖と共に、御神鏡のふたを閉じた。
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