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「――それで」
隣から理玖に話しかけられ、美邑はハッとすると同時に、くわえていたアイスを落としそうになった。慌てて棒を握り直し、同じようにアイスをかじっている理玖に向き直る。
「俺に、話すことがあるんだろ? それで、今日は来たんじゃなかったのか?」
「……うん」
この二ヶ月。美邑は結局、過去の話も、自分が鬼に成ったことも、モモのことさえも、理玖に話していなかった。
と言うより、話すことができなかった。まるで床に散らばった細かなビーズに途方に暮れるような、そんな心地で。一粒一粒を丁寧に拾い上げて、元の容器に戻すためには、それなりの時間が必要だった。
ようやく、整理がついたと思ったのは、家族に対し、普通に朝、挨拶ができるようになったときだった。
自分の姿が親の目に映らなかったら――その、視線が素通りした瞬間の恐怖を思い出し、長いこと身構えてしまっていたが。その度に、あの日の夕方に、理玖に付き添われて帰ってきた美邑を、ただ抱き締めてくれた両親の体温を思い出してきた。
理玖は、ただただ待っていてくれた。これまでがそうであったように、必要以上のことは言わず、美邑を見守っていてくれた。
おそらく、昊千代や朱金丸と対峙し、更には二人を御神鏡に見送ったことで、ただならぬことがあったのだとは、理解してくれているようだが。
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