終話 千切れた心臓は扉を開く

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「……なんだよ」  じっと見つめてくる美邑に、理玖があからさまに顔をしかめる。だが、目はそらさないでくれる。そのことに、美邑はにやりと口の端を持ち上げた。 「やっぱり――今日は良いや」 「は? なんだよそれ」  肩をこかす理玖の背を、軽くぽんと叩き、アイスを一気に頬張る。こめかみがキンとうずくのを我慢しながら立ち上がり、「もう行かなきゃ」と笑った。 「今日はね、このあと約束があるんだ」 「……ふぅん」  気のなさそうな返事をしつつ、理玖の顔がわずかに綻ぶ。夏休みに入る前、美邑は思いきって部活に入った。習俗研究部という、小さな部ではあるが、数少ないメンバーとは気が合い、今日はそのうちの一人と買い物に行く約束さえしたのだ。 「じゃあ、行ってくるね」 「ん。気をつけてな」  ひらひらと手を振る理玖に、美邑は目一杯の笑顔を返し、そのまま駆け出した。  美邑の日常を侵した、出来事の数々。どうせ理玖に伝えるならば、ゆっくりと噛み締めるように話していきたい。それが、美邑を見守り続けてくれ、そして事の最後を見届けてくれた理玖への礼儀だろう。  そしてなにより、大切なモモのことも。誤解なく、ありのままに受け止めて欲しいから。
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