第三話 バケモノ

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「それで、話って?」  パンにかじりつきながら、理玖が首を傾げる。濃いソースの香りが、美邑の鼻先まで漂ってくる。  美邑は少し首を傾げた。さて、なにから話したものかと、眉を寄せる。 「……りっくんさ。赤い着物で白髪の知り合いって、いない?」  教室では呼ぶことのない、昔からのあだ名で呼ぶと、理玖は軽く鼻にしわを寄せた。だが拒否するでもなく、直ぐに宙へ視線をさ迷わせる。 「赤い着物の、白髪ねぇ……。石山さん家の多津さんとか? あの婆さん、よく着物着てるし」 「あ、違くて」  言葉が足りなかったことを自覚し、慌てて手を振る。「箸、振るなよ」と理玖が嫌な顔をするのを見て、美邑はハッとして手を止めた。 「えぇっと、ごめん。その……赤い着物だけど男の人で、しかも白髪なのに若いの」 「なんだそりゃ」  大きな口を開け、そこにコロッケパンを押し込みながら、理玖が唸る。 「意味分かんないけど、実際そういうヒトだったんだもん……鬼のお面被ってて、下駄履いてるの」 「鬼のお面に、下駄だぁ? 着物に下駄はともかく、面つけて歩いてるヤツなんて、ただの不審者じゃねぇか」 「うん……不審者だよねぇ……」  特に異論もなく美邑が頷くと、理玖は首を傾げた。 「おまえは一体、どんな答えが欲しくて訊いてんだよ」 「え? いや、なんて言うか……」  また、言葉が足りなかったらしい。説明下手な自分に、嫌気が差す。美邑はなんと伝えるべきか頭をひねり、ようやく付け加えた。 「そういうヒトに、会ったんだよね。昨日、ここで」 「ここで……?」
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