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「それで、話って?」
パンにかじりつきながら、理玖が首を傾げる。濃いソースの香りが、美邑の鼻先まで漂ってくる。
美邑は少し首を傾げた。さて、なにから話したものかと、眉を寄せる。
「……りっくんさ。赤い着物で白髪の知り合いって、いない?」
教室では呼ぶことのない、昔からのあだ名で呼ぶと、理玖は軽く鼻にしわを寄せた。だが拒否するでもなく、直ぐに宙へ視線をさ迷わせる。
「赤い着物の、白髪ねぇ……。石山さん家の多津さんとか? あの婆さん、よく着物着てるし」
「あ、違くて」
言葉が足りなかったことを自覚し、慌てて手を振る。「箸、振るなよ」と理玖が嫌な顔をするのを見て、美邑はハッとして手を止めた。
「えぇっと、ごめん。その……赤い着物だけど男の人で、しかも白髪なのに若いの」
「なんだそりゃ」
大きな口を開け、そこにコロッケパンを押し込みながら、理玖が唸る。
「意味分かんないけど、実際そういうヒトだったんだもん……鬼のお面被ってて、下駄履いてるの」
「鬼のお面に、下駄だぁ? 着物に下駄はともかく、面つけて歩いてるヤツなんて、ただの不審者じゃねぇか」
「うん……不審者だよねぇ……」
特に異論もなく美邑が頷くと、理玖は首を傾げた。
「おまえは一体、どんな答えが欲しくて訊いてんだよ」
「え? いや、なんて言うか……」
また、言葉が足りなかったらしい。説明下手な自分に、嫌気が差す。美邑はなんと伝えるべきか頭をひねり、ようやく付け加えた。
「そういうヒトに、会ったんだよね。昨日、ここで」
「ここで……?」
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