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おうむ返しをしながら、理玖が周囲を見回した。なんということもない、屋上の景色。校舎屋上の、景色。
「……ガチもんの不審者だな」
「だから、そうなんだけどさぁ」
しみじみと呟く理玖に、美邑はため息をつく。問題は、話がそこで終わりではないということだ。
「実は昨日の朝のうちに、多分そのヒトのこと、神社で見かけたんだよね……あたし」
「神社って……うちのか?」
「うん。そのときは、顔は見えなかったけど……」
昨日、モモに話したこととほとんど同じように喋りながら、美邑はちらりと理玖の様子を伺った。パンを咀嚼しながらも、眼鏡の奥の目が訝しげに細められている。
それ以上、なにを言うべきかも分からず、口の中に唐揚げを放り込む。鶏肉の旨味と、にんにく醤油の下味がじゅわりと舌の上に広がり、一瞬それに気を取られた。
「……まなんじゃねぇの?」
「え?」
聞き流してしまった言葉を拾おうと首を傾げると、理玖はもごもごと口を動かしてから、「いや」と首を振った。
「そんだけ派手なヤツなら、見ればすぐ分かるだろうし。家に帰ったら、爺さんにも訊いてみるけど」
顔の広い神主ならば、なにか分かるかもしれない。少し微笑み、「ありがとう」と理玖に頭を下げる。
「お礼に、唐揚げやっぱり、一個分けてあげる」
「お。ラッキー」
「うまっ」と唐揚げを頬張る理玖にまた笑い、美邑ももう一つ口にした。肉を噛む美邑に、「でもよ」と声がかかる。
「なんでおまえが、そこまで気にすんだよ。不審者に会ったって……もしかして、なんかされたのか?」
一瞬。
「迎えにきたって言われて」と、そう口が動きかけた。それを留めたのは、先程聞き流した理玖の言葉が、今更になって頭の処理に追いついたからだろう。
――仲間なんじゃねぇの?
こんな場所に、唐突に現れ。そして消えた不審者。呟いた理玖の真意を図るほどに、口の中の唐揚げの味が、薄れていくような気がした。
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