第四話 誰そ彼時の帰り道

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第四話 誰そ彼時の帰り道

 だんだんと、田舎の景色へと変わっていく窓の外。お洒落な店の代わりに木々や畑が増え、背の高いビルがなくなる代わりに農家の平屋がぽつぽつと見えてくる。  帰りの電車に揺られながら、美邑はそれをぼんやりと眺めていた。  いつもの駅を降り、無人駅で定期を機械にタッチする。ピロリンという間抜けな電子音の許可を聞き、改札を通り抜けた。どうしようもない田舎ではあるが、人手をかけないための機械化は、それなりに行われているものだ。そんなことを、今更ながら可笑しく思う。  駅を出て直ぐの駐輪場へ、自分の自転車を取りに行く。目が覚めるような、真新しい黄色の自転車。向日葵を思わせるその明るさに一目惚れし、高校生活の供にと選んだものだ。実際には、短い通学時にしか使わないのだが、それでも気持ちを上げて一週間過ごすためには、絶対に必要だと買った当時思ったのだ。  黄色い自転車に跨がり、緩く傾斜した道を下っていく。オレンジ色の空に照らされて、長い影がついてくる。涼しい風が肺に入り込んできて、身体の中を換気していく。思いきり息を吐き出せば、古い空気と一緒に、胸にたまった黒いモヤも出ていくような心地がした。  ――と。  がしゃんっ、と音を立てて、自転車が段差を落ちた。十五センチ程度の、ちょっとした段差だ。勢いが良かったのか、自転車は縦に大きく揺れた。バランスを崩すことはなかったが、気を取り直して踏んだペダルに手応えはなく、カラカラと音を立てながら空回りした。後ろのタイヤと繋がっていたチェーンが、弾みで外れてしまったらしい。
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