商店街と猫とアンティーク

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「もう!じゃまやねー!シッシッ!」 黒いしっぽと緑の目が一瞬こちらを確認し、一本の線になって走り去っていく。 いつもいつもここに来ては、うちの店の前でおしっこして。ほんと勘弁してほしいわ。 昔はにぎやかだったこの商店街も、今は人よりも猫の方が多い。宮崎市の若草通(わかくさどおり)の隅っこにある小さなブティック。いまはブティックとは言わないのかねぇ。小さな洋服屋といえば最近の子にも分かるのだろうか。 以前はオシャレな商店街として若者を中心に人が溢れていた。いまは郊外に出来たショッピングモールのせいで、めっきり人は減った。まぁ、うちは元々、若者が来るようなお店じゃないけどねぇ。それでも同年代のばあさんがいっぱい来てくれたもんだ。若者が減ると何故か年寄も減った。ほぼ毎日来てくれたヨネさんもカヨさんもどうしてるんだろうか。 何年も売れていない時代遅れの洋服を畳んで並べてある中央の大きなアンティークの机。その横にある古びた椅子にそっと腰かけた。店内を見渡せるこの場所が定位置。もう何年も何年もここで過ごしている。 窓から柔らかい日差しが射しこんでくる。隣のビルもいつの間にか駐車場になった。おかげで日が当たって助かるけどね。
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