商店街と猫とアンティーク

4/5
25人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
「あっ!これかわいい!」 女の子は飛び跳ねるように店内に入り、巾着袋を手にとった。 「ほんとやね。お弁当箱にちょうどよさそう」 「おばちゃんこれください」 えっ?一瞬耳を疑った。昔、もうずっと昔、趣味の延長で作ったような巾着袋。とまどいながらも思い出と一緒に袋に詰めて、女の子に手渡した。 「ありがとうございます!」 はじけるような笑顔を見せて女の子たちは帰って行った。 「お礼を言わんとね」 お礼を言おうと外に出た。もう猫の姿はなかった。猫も女の子もそこにはなかったように。 ずっと縫製の仕事をしていた私に自分のお店をやってみてはどうかと提案してたのは夫だった。夫の退職金から開店資金をすべて賄った。そんなに儲かりはしなかったけど、毎日楽しかった。たくさんの人が来てくれて、たくさんの笑顔をもらった。夫は閉店時間になると車で迎えに来てくれた。帰りの車の中で一日の出来事を話すのが日課だった。ハンドルを握り、笑顔で頷く夫の横顔は今でも忘れない。 夫は病気で亡くなった。夫が残してくれたお金のおかげで、お金の心配はなくなった。時代の流れと共にお客さんの数はどんどん減った。それでもお金の心配する必要はないから、お店を開けるのが目的になった。 そういえば、さっきの女の子たちが募金のお話しをしていたのを思い出した。見に行ってみようかねぇ。思い立ったが吉日。すぐに「外出中」の札を出しお店を出た。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!