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3ヶ月以内に父は死を迎えるらしい。
母親からの電話で朝子はそのことを知った。
前立腺から既にリンパ節に転移したステージⅣの末期ガンということだ。父は我慢強い人だったから、きっと最後の最後まで痛みに耐えていたのかも知れない。
病室の父は痩せこけて、本当に今にも死にそうだと朝子は思った。父と園長の桂木が同じくらいの歳だということを信じられないくらい、父は老衰していた、
「残念ですが、余命はあと3ヶ月程度と思って下さい。」
医者は朝子の前で母親に対して行った説明を繰り返した。母は未だ父にそのことを伝えてはいないらしい。多分、母自身が父の死を受け入れられていないのだ。母は父を深く愛していた。
「お母さん、大丈夫?」
朝子は声をかける。母の方が先に死んでしまうのではないかという程に、彼女は青ざめた顔をしていた。
「大丈夫よ。大丈夫。」
母は繰り返した。きっと全然大丈夫ではない。
それから3ヶ月の間、結局母は告知をしなかった。
しないと決めた訳ではなかったが、決断を先送りし続けていた。それはつまるところ、告知しないということだった。父の体調が比較的安定していたことも、母の覚悟を揺さぶる要因だった。しかし、それは父が単に我慢強いからだと朝子は思う。ガンは着実に父の身体を蝕んでいる。父は痛みに耐えているに違いない。そしてその痛みは、母の代わりに、父に死期を伝える。父は母と朝子の嘘に付き合って、騙されたフリをしているのだ。父はそれほど我慢強い人だった。
「お父さん、来たよ。」
朝子は努めて明るく父と接するようにした。演技は得意ではなかったが、ユリエの朗読を思い出しながら、調子を真似して明るい声を出す。
「朝子か、仕事は順調か。」
父は決まって朝子の話を聞きたがった。朝子が近況を語ると、父は絵本の朗読を聞く子供のように、朝子の話に聞き入るのだった。
「昨日、後輩の子と仕事帰りに飲みに行ったの。」
朝子は物語を語り始める。病室には朝子と父と2人、静かな時間が流れる。
「浮気した彼氏に、地獄に落ちてしまえって。」
朝子は冗談ぽく言う。父も面白そうに笑った。
「浮気はイカンな。それだけで地獄行きは少し可愛そうだが。」
父は苦笑いしながら言う。
「お父さんな浮気したことある?」
朝子は尋ねる。
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