出逢い

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もうすぐ弟の高校受験を控えた1月の中旬。 私は寒さに身震いしながら、近所の小さな神社へとやって来た。 吐く息は白く、手袋をしていても指先は氷のように冷たい。毎年毎年、夏と冬の温度差にはほとほと愛想が尽きる。 私が住む地域は一面真っ白な雪に覆われる、いわゆる極寒の地と言うやつで、もう17年もこの厳しい冬を経験していると言うのに、ちっとも寒さに耐性がつかない。 夏は冬の寒さが思い出せないし、冬は夏の暑さが思い出せない。 多分、みんなそんなもんなんだろうけど。 神社の入口で御手洗(みたらし)をしようと手袋を脱げば、一瞬で冷たい風に包まれて指先が痺れた。 あぁ、だめ。 御手洗をする勇気が一気に失せた。 寒すぎる。 でも、やらなくちゃ先には進めない。 しっかり身を清めて、神様に会いに行かなくちゃ行けないんだから。 そう、私がわざわざ寒さに凍えながら神社までやってきたのには理由がある。 我が弟ながら呆れるほど学力が低く、そのくせ『落ちたらその辺で働くからいい』なんて、この就職難のご時世を舐め腐って脳天気な発言まで繰り出しやがった弟、知紘(ちひろ)の合格祈願をするためだ。 ───ガランガランガラン 何とか御手洗を済ませた私は、カタカタと震える身体で拝殿の前まで来ると、大きな鈴を両手で必死に鳴らした。 ───お賽銭は投げ入れるものじゃないのよ。 7歳の七五三の時に、母から教えて貰った通り、お賽銭を賽銭箱の上にそっと置いて2回深く礼をする。
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